拝啓、想い人様

この記事は、当サイトで行われている「センチメンタルグラフティアドベントカレンダー2018」の第23日目の記事です。

相見ては 千歳や去ぬる 否をかも われや然思ふ 君待ちかてに  

詠み人知らず

「あなたと出逢ってから、すでに一千年もの月日が経過したように思えます。これは私だけでしょうか?私は、今日も、あなたに逢いたくて、待ち焦がれております」

~万葉集 巻11 2539より 私訳~


拝啓

月迫の候、お変わりなくお過ごしでしょうか。

年内も余日少なくなって参りました。
冬の澄んだ青空の下、年末、正月の準備に、周囲も何かと気忙しく動いておりますが、人々の心や、流れる時は、静かで、どことなく穏やかにも感じられる、この年末の雰囲気が、私はとても好きです。

さて、時節のご挨拶もほどほどに、突然のお便り申し訳ありません。普段このようなことがないため、さぞ驚かれたことでしょう。

本来ならばこのような時期は外すべきところなのでしょうが、どうしても、貴女にお伝えしたいことがございます。

とは申しましても、お恥ずかしながら、直接言葉で伝えようとすると、はっきりと伝えられる自信が全くないのです。
けれども、至極重要な事である上、不足なく、すべてをお伝えしたいため、このように筆を取った次第です。

早いもので、貴女と初めて出会ってから、今年で20年が過ぎ、その年も終わろうとしています。

思い返してみますと、優しい温もりを感じる出来事ばかりが思い出されます。
貴女の影響で、少しずつ本を読んでみようと思っていますが、時間が取れず積んでばかりです。
そういえば、お祭りの際には、厚かましい行為大変失礼いたしました・・・

・・・けれど、もう1つ、私は貴女に、謝らなければならないことがあります。実は、お伝えしたいことは、そのことに端を発するのですが・・・・

覚えていますか?

貴女が私に聴かせてくれた、淡い恋色に彩られ、殊勝の輝きを放っていた、あの歌・・・・

貴女の想いの旋律、詩が、記憶から、まったく、抜け落ちてしまっていたのです。

あの日、あの時、確かにそばにあったはずだった、貴女の歌の記憶だけ、なぜ、こんなにも、失くしてしまっていたのでしょうか。

20年という時の流れだけがそうさせたのだと思いたい。しかし、本当に?
戸惑う心を抑えられずに、言いようのない不安と焦燥感に駆られながら、もう一度、聴いたのです。

すると、どうでしょう。

記憶の奥底から、徐々に、呼び戻されて行く感覚を覚え、いつの間にか、一緒に口ずさんでいました。

詩の一句一句に込められた、貴女の奥ゆかしい為人と、澄んだ瞳と、清らかな心と想い。

私は、胸の奥底から込み上げてくる、この思いを、はっきりと、感じ取ったのです。

 

・・・古来より、日本の女性たちは、遠く離れた想い人に対し、その気持ちを歌にして綴り、遺してきたと言います(きっと貴女なら何首も暗唱して聴かせてくれるのでしょう)。

そんな、「一千年の悠久の時」にも似た、20年という長い年月、その想い、ずっと変わらずに、見つめ続けていてくれたのだと思うと、自分の鈍感さを痛感し、自責の念に駆られるとともに、胸の奥が焦がれる思いがしました。
このような気持ちになるのは、初めてです。

あの夜、一緒に聴いたオルゴールの音色のように。
小さく、儚げでも、凛として、しとやかな音色は、紫にそよぐ風となって、私の心を揺らします。

私と、貴女を20年の時を越えて、繋ぎ止めていてくれた、あの歌。
貴女の歌は、淡雪のように消え行きそうだった記憶を呼び覚まし、私の想いにも気づかせてくれました。

遅すぎるのでしょうか?まったくお恥ずかしく、このようなことを申し上げるようなことも憚られる思いでありますが、
20年という月日の旅の終わりに、
貴女に、誰よりも今、伝えたいのです。この揺れる想いを

 

貴女が、好きです。

 

時を越えて紡ぎ続けてくださった、貴女の一筋のせつなさ、受け止めさせてください。

 

叶うならば

 

・・・・とりとめもないうえ、私自身の都合ばかりを並べてしまい、さぞ困惑されたかと思います。
しかしながら、私の気持ちを、正直に、精一杯にお伝えしたかったのです。

今でも筆を持つ手が震えてしまっており、字面もお見苦しいかも知れません。

厚かましいお願いであることは承知しておりますが、お返事を、お聞かせください。

巡る季節の中で、いつまでも、お待ちしております。

 

 

 

先日お邪魔した際に見た紅葉は、澄んだ青空に煌びやかに映えて、大変美しい光景でした。

そういえば、桜の季節に、そちらをお訪ねした事がなかったと思います。
満開の時期は、紅葉にも劣らずの美しさが見られることでしょう。

寄せ合いながら、咲き誇る花は、季節と共に、少しずつ色を変えてゆきます。その彩りを、変わりゆく街の景色を、いつも、いつまでも、貴女と一緒に、眺めていけたら、どんなに素晴らしいことでしょうか。

 

紙面も尽きそうですので、このあたりで筆を置きたいと思います。

これからますます寒さ厳しくなることでしょう。
ここ数年は、各地で天候が荒れる報道も多く聞かれます。

くれぐれも、お身体を悪くされませんよう、御自愛ください。

それでは

敬具


待つらむに    至らば妹が    嬉しみと   笑まむ姿を   行きて早見む

詠み人知らず

「私を待っていてくれる貴女が、再会したときに見せてくれる、その嬉しそうに微笑む姿が観たいから、早く、貴女に逢いに行きたい」

~万葉集 巻11 2526より 私訳~

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